「世界トップの残高を誇るヘッジファンド」×「IFA」
これまでのご経歴をお伺いしてよろしいでしょうか?
私は大学時代、証券ゼミに入って証券市場について勉強すると共に、アルバイトで稼いだお金で実際に投資をすることで証券会社の営業の内情を知りました。それから、大手証券会社の営業手法に矛盾を感じていたので、自分の思い通りに自由に営業がしたいと考え、敢えて小さい証券会社に入社しました。
入社後、ブラックマンデーが起きて、マーケットの動きは自分の力では、いかんともしがたいことを思い知り、理想とする営業の実現は、大変難しいと実感しました。
小さい証券会社で10年営業を続けましたが、変化を続けるマーケットの中で、どうしたら自分の裁量でお客さまと向き合う仕事ができるか、真剣に悩み、思い切って営業の自由度が高い歩合外務員になりました。思いは現在のIFAの理念と共通するものがありました。
お客さま自身の満足度を得ないことには注文をもらえず、自分の収入も上がらないという立場に自分を置き、お客さまと利害が一致するような営業ができるよう努力しました。 ですから、今のIFAの方が「お客さまの立場になってアドバイスをしたい」という気持ちは十分理解が出来るところですし、そうあるべきと考えています。
創業の背景について教えてください。
過去の経験から、お客さまの望む商品を売りたい、他社では取り扱っていない独自の商品を売りたい、その思いが創業の背景にあります。
当社は2002年の創業ですが、当初は違う商号でした。私が譲り受けに関係し、現商号になりましたが、当初は現在のファンドビジネスとほど遠い、株式や投資信託を扱うブティック型証券会社でした。
手数料が自由化されたことで、大手証券との差別化を図らなければ、弊社のような小さなブティック型証券会社は生き残れないと思い、思い切って株式の売買等から撤退し、お客様本位のビジネスモデルへのチェンジを模索しておりました。
ビジネスモデルをチェンジする際、お客さまは小さな証券会社に何を求めるのかを課題として向き合っていました。私の経験で、自分の意に沿わない金融商品はどうしても売りたくない。自分の大切なお客さまには私たち自身が納得できる商品を売りたい。
証券会社の社長になって、今こそお客さまにとって本当にいいと思える商品を取り扱うビジネスモデルを創ると決意しました。そのためには、他の証券会社では扱っていない実績のある海外の金融商品を販売することがベストだと行き着いたのです。回転売買で収益を上げるというビジネスモデルから、長期、超長期に保有してもらえる金融商品を提供することがお客さまのためになり、売る側も買ってもらってよかったと自信を持てる金融商品を扱いたいと思いました。
しかしながら、現実はそう簡単ではなく、思いを実現させるには小さい会社であることの信用を含め様々な高い壁があり、思うような活動ができませんでした。結局、何度か試行錯誤の中、手痛い失敗を経験し、自分たちで金融商品を作って提供することを断念し、世界の金融マーケットのリサーチを開始しました。
海外に目を向けると、スイスに安定的なファンドがある、という話を頂いたことが大きな転換点です。海外にはヘッジファンドという商品があり、伝統的に良いパフォーマンスを出して、富裕層などの期待に応えている。そのファンドは、今は弊社の基幹商品になっていますが、その商品と出会ったことが、弊社にとって幸運だったのです。なぜなら、やっと本当にいい金融商品にめぐり合えたからです。
IFAとの提携を広めようと考えた背景は、どのようなことからなのでしょうか?
日本のIFAの制度については以前から知っていました。IFA制度は欧米が先行し、今では、顧客から本当に信頼されるアドバイスシステムになっています。日本においても、IFAビジネスが活性化することにより、多くの人に従来型の運用の見直しを提案し、中立的な立場からの優れたアドバイスを提供することは、人生100年時代を迎えたこの国に欠かすことはできません。
お客様と証券会社の間に入って、お客様の立場で良い金融商品を提供するIFAの理念は絶対に必要です。その立場に立つIFAであるならば、大きな証券会社が販売しているとか、小さな証券会社が販売しているとかではなく、その金融商品自体が、自分の大切なお客様の運用に役立てるかというフラットな観点で判断してくれると考えているからです。 2011年よりスイスのファンドを取り扱い始めたことをきっかけに、現在では、グローバルに実績のある有名ファンドなども扱えるようになりました。小さい証券会社にいた当時に私が覚えた違和感を、弊社と協働することでIFAの方も払拭できるのではないか、と考えています。
弊社の運用に対する理念は、必ずIFAの理念と一致し、力を合わせれば国内の金融商品マーケットに変革を起こせると考えたことがきっかけです。
IFA業界の課題について、どのようにお考えでしょうか?
アメリカのIFAは、二種類あります。日本でいうIFAと同じ業務をするIC(Independent Contractor)とRIA(Registered Investment Adviser)。後者は、投資顧問業等として登録し、投資一任勘定も行うことができるIFAです。
日本におけるアドバイザー業務には明確な区別がなく一括りにされているところに、まだ課題があると思います。日本のIFAの中にも売買の執行での報酬を重要視するのではなく、長期に安定した運用商品を保有していただくことで、その資産残高にスライドして報酬をもらうという考えのストック型のIFAが増えてきていることは、お客様本位の営業姿勢として歓迎されるべきものです。
IFAのビジネスモデルが違っているにもかかわらず、同じ名称のため差別化できず、ご苦労されているIFAもおられるのではないでしょうか。
今後、金融仲介サービスの新しい取り組みが始まっていくので、お客様や新しくIFAになりたい方たちが分かり易いように正しい情報が開示されるべきではないでしょうか。 「IFA=独立的な立場」というだけで判断するのは、非常に危険だと思っております。言い方は悪いかもしれませんが、従来型の証券会社の規模を小さくしただけのIFAが乱立することは、制度の趣旨に添いません。弊社の場合、長期に安定的な運用を目指し、お客さまの利益を大切にしながら、預かり資産の報酬で経営の安定を図るストック型ビジネスのIFAの方とならば、弊社の考えと共感できると思っています。
今後の新しい仲介業の取り組みが開始されることで、IFAの存在意義が明確化され、運用に困っている人にアドバイスする側も、また、運用商品を供給する側も、この機会を運用マーケットを変革する良い機会に出来ることを望んでいます。
エアーズシー証券のヘッジファンドについて、教えてください。
弊社は、他社で販売していない商品を扱っています。弊社がお客様にとって良いと思う商品を扱うことで、弊社の存続を担保するビジネスモデルを選びました。
弊社にとってヘッジファンドとは、プロの運用する金融商品で、プロが運用するので当然、マーケットの平均より優れた運用をするものと考えております。野球にしろサッカーにしろプロの技があります。マーケットと同じ運用を期待するのであれば、ETFを買うアドバイスで済みます。そこで、プロが競い合うヘッジファンド市場に目を付けました。
しかし、海外で実績のあるヘッジファンドが日本の小さな証券会社に供給してくれるか、そこが一番の課題でした。スイスのファンドの時はそのファンドマネージャーの方と巡り合えたのですが、本来、有力なヘッジファンドは、一見の客は対象としていません。運用実績があればあるほど、取り扱いのハードルは高くなります。
2019年、海外の有力なアセットマネジメント会社が日本でヘッジファンドを販売する先を探しているが、との情報を聞き、直ぐにお会いしました。弊社が、専業でスイスのヘッジファンドを扱っているという実績があったからだと思います。弊社としては、願ってもないことでした。
但し、本当に実績のあるファンドを取り扱うことができるのか、疑心暗鬼でした。 例えば、残高で世界トップ10に入るレベルのものを本当に扱えるのか?日本の投資家に、売ることが可能なのか? しかしながら、話し合ってみるとすぐに疑問は解消されました。そのアセットマネジメント会社は、親会社が世界有数の企業であり、その親会社の巨額の運用資産をすでに有力なヘッジファンドで運用しており、そのリレーションを使い、弊社にヘッジファンドを取り扱うプラットフォームを提供してくれるスキームでした。
そして、そのアセットマネジメント会社と協働し、世界でトップ10に入るヘッジファンドを2019年7月に誕生させました。世界の富裕層や機関投資家でなければ購入することができないファンドを日本で扱うことが可能になったのです。
今、世界のヘッジファンドの残高は400兆円です。日本の公募投信の残高は140兆円です。ヘッジファンドだけで日本の公募投信よりも多いのですが、情報が少ないことで、日本ではヘッジファンドの評価はあまり高いとは言えません。
毎年投資信託のファンドランキングなどが発表されますが、国内において、長期、超長期での運用成果で競っているものがどれほどあるでしょうか?確かに、一部に根強い人気のファンドはあります。なぜ根強い人気なのか、それは、しっかりした運用哲学でプロが運用しているからだと弊社は考えております。
米国でも400兆円もの残高を積んでいくにあたって、長期で安定的な運用が主でなければ資金は集まってこなかったはずです。有名な大学も運用しなかったでしょう。ヘッジファンドに対する日本の間違った常識を変えるチャンス、世界の運用を日本の投資家に紹介するチャンスだと捉えて、ヘッジファンドを専門に扱うことを決めました。
ヘッジファンドを日本で扱うことができたら、差別化できるのではないか?運用技術の最先端でしのぎを削るその手法を紹介したい。10万ドル程度から個人でも買える形を作ることは、小さな証券会社だからこそできるのではないか。小さな証券会社でも、商品が良ければ事業会社に販売できるのではないか。挑戦は始まったばかりです。
ヘッジファンドが日本でうまく広がらない理由について、どのようにお考えでしょうか?
ヘッジファンドを使って運用のアロケーションを作ることが富裕層の主流だ、と海外のアセットマネジメントは考えています。しかし、日本には正確な情報が入ってきません。弊社でさえ、個々のヘッジファンドについて知り得たのは、海外のアセットマネジメントの情報提供があったからです。まずは、情報の格差があるという現状があります。
現状の認識は、ヘッジファンドはボラティリティが高く、大きく儲かるが、大きく損をする可能性もあるなど、偏った情報が大勢です。実際は、長期安定運用に向いたヘッジファンドは世界中にたくさんあります。その選別が大事なだけです。
また、日本にはお金を減らさないことを運用の目的にするという方々が多くいるのも特徴です。お金は汗水垂らして稼ぐものという風土もあります。その考え方は大変貴重ですが、同時に社会の変化に合わせて、運用を通して将来設計することも大変重要です。
世界の富裕層はお金に働いてもらって、リゾートで静養することがステイタスです。その為に、良い投資先を選定するために必要なアドバイスを得る経費を惜しみません。日本人がいきなりそこまではいかなくても、お金を有効に運用することは真剣に考えなくてはいけません。
しかし、情報格差や運用の考え方の相違だけではなく、供給側にも問題はあります。アドバイスする側や金融商品を提供する側です。ヘッジファンドは運用手法が高度であることから、勧誘に際する説明も高度な知識を必要とすることも敬遠する一因と思います。
また、国内における販売の形式が「少人数私募」形式の販売になってしまうため、商品名を含めどうしても情報の開示が制限されるため、オープンな議論ができないことも要因となります。
高度成長期のような日本であればヘッジファンドのような金融商品は必要ないのかもしれません。将来の少子化が決定的となり日本の潜在成長率が期待できない中で、金融庁が発表した日米英の家計金融資産の推移のグラフを見て、運用のスタンスを変えていかなくてはならない、今だからこそ広めなければならないと実感しております。
政策でも、「貯蓄から投資へ」と謳っておりましたが、海外のファンドを日本に持ち込むと、いろいろな規制があります。海外の方から「日本は金融の鎖国をしているようだ」と言われることがあります。現に、弊社と協働したアセットマネジメント会社は、日本の法律の理解が難しく断念しかけました。
法律の範囲内でどのようにヘッジファンドを認知してもらい、販売していくかは大きな課題だと感じていますが、それらの問題に一つひとつ取り組み、運用に困っている方々に世界基準の新しい価値を提供することに邁進したいと考えます。
IFA業界に期待することは何でしょうか?
投資信託の残高が増えなかったり、資産運用ビジネスが推進できなかったりする理由を日本人の金融リテラシーが低いからだという方もいますが、私はそうは思いません。アドバイスをする方の数が圧倒的に少ないからだと思っています。アドバイザーが今よりも増えて、高度なアドバイスが広まっていけば、金融リテラシーは問題にならないと思います。
現に、米国と日本のIFAの数の差は大変なものです。お客様に対しリテラシーが低いなんて言っていること自体、ナンセンスです。信頼を得られるアドバイザーを増やし、良い金融商品を増やし、積極的に運用を一般の方たちが考えられる体制をつくることが日本の課題だと思います。その為に、今の日本のIFAの方たちが欧米型のビジネスモデルを採用して、成り立っていくことを期待します。
欧米ではIFAの社会的地位や収入は高いものとなっています。それは、一般の人や企業が自身の資産運用に対する良いアドバイザーを求める気運が強いことが要因になっています。金融商品を販売したい金融機関のアドバイスでは利益相反が出ることから、客観的に判断してくれるアドバイザーの意見が大変重要になります。それほど大事な決断をするわけですから、アドバイザー自身がお客様の決断に必要な知識や見識、とりわけ人格を備えていることも必要となります。ですから、必然として社会的地位や収入も高まるわけです。
日本においても、このような形でIFAの地位が認知されるよう、誠実にお客様の運用をアドバイスするIFAが増えることを望みます。
エアーズシー証券の今後のビジョンをお伺いしてよろしいでしょうか?
大きく分けて2つあります。
一つ目は、お客様は、人それぞれの運用資産額、生活スタイル、人生設計、年齢などにより、良い金融商品の定義が違ってくることも考えています。お客さまが資産を長期に運用する中で安定的だけを望まれるのか、中には、多少のリスクがあっても10%以上のリターンを狙いたいとか、株式以外で運用したいとか、多様化してくるのではないでしょうか?今後、多くのアドバイザーが出てきて、資産運用に目が向くとき、それぞれのお客様の個別のニーズにお応えできることが供給側の証券会社としての役割になると思います。
そのソリューションとして、個別のお客様の望むリスクリターンに合わせ、自由にアロケーションできる「カスタムメイドの金融商品」を提案したいと考えています。
お客様、IFA、事業法人様などに、既存の金融商品だけではなく、それぞれが望む形の金融商品を話し合いながら納得してもらった上で組成することは、新しい運用の形を提案する革新的な取り組みと考え、すでに準備を進めています。
二つ目は弊社との協働でファンドビジネスを展開したいIFAの方を全国に広げていくことです。日本の首都圏と地方でも運用情報の格差があるのではと考えており、地方で活躍しておられるIFAの方へ、ヘッジファンドをもっと知っていただくサポートです。
世界基準の運用を知っていただき、今まで欧米に後れを取ってきた運用分野で、新しい価値の提案をお客様にしていただくなかで、結果としてお客様の人生設計に役立つよう、IFAの方たちと力を合わせて活動したいと考えます。
これらの活動を通して、現状ある、世界との運用の格差を無くすことが、弊社のビジネスの目的です。
経歴
エアーズシー証券株式会社
代表取締役社長 栗原 友紀様
1987年山文証券株式会社(現 むさし証券株式会社)へ入社。その後、証券会社3社他、事業会社を経て2002年エアーズシー証券株式会社設立。2008年エアーズシーホールディングス株式会社設立 代表取締役社長就任。2011年エアーズシー証券株式会社 代表取締役社長就任。一般社団法人日本国際文化協会 理事。