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インタビュー

米国版IFAの歴史から見る、今後の日本IFA業界の発展

INDEX目次

これまでのご経歴をお願いいたします。

大学卒業後、野村総合研究所に入社し、初めは証券アナリストの業務に従事していました。
その後、資本市場を調査する部署に異動となり、野村證券やそのお客様の企画職関連の方に向け、日米の金融制度改革や金融機関経営に関する調査を行っていました。その後は、NRIアメリカや野村資本市場研究所、野村證券等を経て、現在に至ります。
これまでのキャリアの過程で個人向けに金融サービスを提供するリテール業務の状況や戦略を調査することも多く、そこで米国版IFAのようなビジネスの研究も行いました。

金融機関の経営・リテール戦略の研究では、どのような調査をされていたのですか?

最初は米国の大手証券会社の歴史や業務について調べていました。しかし、それだけではリテール業務の全貌が理解できないことに気付きました。リテール業務といっても、銀行窓販や投資信託の直販、従業員以外で営業に携わる方々もいたりして、営業チャネルが多岐にわたるからです。そのため、一つ一つのチャネルについての調査・研究を行うようになりました。
これらの調査の中で気付いたことは、金融のリテール業務で重要なのは結局、機械ではなく、人だということです。ネット証券等も90年代半ばから登場しましたが、結局は人に行きついています。色々な金融機関の歴史や構造について調べましたが、人の重要性に気付いてからは、営業マンの行動の変遷をたどることに面白さを感じるようになり、いつの間にか営業マンウォッチャーになっていました。米国版IFAに関しては、1999年に「米国のインディペンデント・コントラクター(独立契約型証券営業マン)」というレポートを書いておりますのでお目通しいただけますと幸いです。

米国のIFAについて教えていただけますか?

まず、アメリカで対面型のアドバイスを提供する証券市場の規模は2022年時点で27兆ドルです。その中で伝統的な社員型の証券営業マンの市場が12兆ドル、10兆ドルが独立系と呼ばれている方々です。
さらに、独立系には3つの種類があります。その中には、日本のIFAのような証券外務員として、コミッション収益を得て活動している「証券外務員型」と、投資顧問登録を行い、顧客からフィーをいただきながら活動している「投資顧問型」、両者の「ハイブリッド型」がいます(いずれも証券会社の従業員ではないという意味での独立系)。証券外務員型の市場規模は3兆ドル、投資顧問型の市場規模は7兆ドルになっており、アメリカでは投資顧問型の方が圧倒的に大きいのが現状です。
また、先程の社員型も大手証券とそれ以外に分類されます。2019年時点の構成比は、独立系が37%を占めているのに対し、大手証券の方が34%と少なく、そのほかのチャネルが28%となっています。2025年には大手証券の割合が28%まで下がり、独立系の割合が44%になると予測されています。

大手証券から独立系への移籍が予想されていますが、どのような背景があるのでしょうか?

良くも悪くも大手の宿命が影響しているのではないでしょうか。
やはり、大手証券会社が、ある程度の規模や地位を築くと、そのお客様はサービスに対する一定のクオリティを求めます。それは、証券会社にとって、メリットでもあり、デメリットでもあります。均一化されたクオリティの高い、大手証券会社のサービスは素晴らしいですが、お客様にピッタリ合うように、自由にカスタマイズできるかというと、そうとは言い切れません。しかし、お客様の趣味嗜好は多様化しているので、全方位型営業は現実的ではなく、営業マン自身もどのような顧客への提案を得意としているのか考える必要もあります。
一方で、独立系のアドバイザーは、距離感も近くお客様の要望に柔軟に対応できる部分がありますよね。このように、お客様に柔軟に対応できる環境を求めて、独立系に移籍する人も出てきているのだと思います。
ITバブルや金融危機等、時代の背景も影響はしていると思いますが、最終的に大手証券会社に属し、プライベートバンカー的なキャリアを目指したいのか、それとも得意分野に特化した独立系がいいのかは、目指しているアドバイザーのあり方にもよるのではないでしょうか。

日本では転勤等がネックで転職をする方も見受けられますが、アメリカはどうでしょうか?

実はアメリカでは大手証券に勤めていても転勤がほとんどありません。営業マンにとって一番嫌なことは、営業基盤が無くなることなんですね。長期的な関係性を構築できないと、お客様からの信用も無くなり、お取引も無くなってしまいます。会社もこの点を理解していますので、よっぽどのことが無い限り転勤は少ないですね。
また、アメリカでは早い段階で営業マンとして生きるのか、管理職になりたいかの意思表示を行い、それぞれのキャリアを目指します。日本では営業成績の良い方が、支店長となっていくキャリアパスとなっていますが、アメリカはそうではありません。管理職を目指す方は、そのための経験を早くから積み、評価軸も支店長になると個人の営業収益連動から支店業績連動に変わります。そのため、トップ営業マンの報酬の方が支店長より多いということもよくあります。ここは日本との大きな違いでもありますね。

自身の思い描くキャリアを発信しやすい環境で、なぜIFAが浸透したのでしょうか?

1つは投資顧問型の方がいらっしゃるからではないでしょうか。日本でも投資助言の資格でアドバイスを行う企業がいくつか出てきていますが、アメリカを倣っての参入かと思われます。
投資顧問型は投資顧問登録を行うことでアドバイスフィーを得ながらのビジネス展開ができるのですが、その中でも専業の方々は証券外務員免許を持たずに活動しています。彼らはアドバイスを通してお客様が証券を購入しても、コミッションを貰えません。そのため、利益相反が発生しにくく、投資家保護の観点でもより中立な立場であるのでないか、と見られています。
一方で、証券外務員型が浸透しているのは、日本と同じ理由もあるのではないでしょうか。アドバイスフィーだけで生活していくには、資産を多く預かる必要があり、ターゲットとするお客様が限られてしまうからです。また、証券外務員でないと取り扱えない良質な商品もありますので、最近のトレンドはどちらの資格も有しているハイブリット型になりますね。
詳しい歴史等は、「IFAとは何者か」という書籍を執筆しておりますので、そちらをご笑覧いただけますと幸いです。

昨今、日本ではIFAの報酬体系も注目されておりますが、こちらはいかがでしょうか。

非常に重要だと思います。アメリカで、お客様が重視しているのは、実際の取引の前工程だと言われています。というのも、様々な手法や商品がある中で、お客様の叶えたい将来の姿に少しでも近づけるような提案を行うことを、IFAは求められています。その提案を行うためには、お客様の現状把握や将来展望等の理解が欠かせません。また取引後、お客様が目指すゴールに近づいているかの検証や、それを受けての計画の見直しも欠かせません。そこで、これら前後の工程にも対価を払うべきだと考えられるようになりました。そうすると、取引に付随するコミッションよりも、残高に応じて継続的に払い続ける手数料の方が、一連の工程の対価としては馴染みやすいですよね。また先ほども述べたように、残高手数料で生活をするには、預かり資産が多くないといけないので、一般的にはこちらの方が、信用性は高いです。とはいえ、コミッションが悪い訳ではなく、お客様との関係が長期にわたれば、コミッションの方が割安になることもあり得ます。よって、お客様の志向に合わせて選んでいただける仕組みを整えれば良いのではないでしょうか。
また、アメリカのIFAの中には、中小企業オーナーに対して経営に対するアドバイス等を行っている方もいますので、マネタイズポイントが多いといった違いもあるかもしれません。

日本でIFAがより浸透していくにはどのような取り組みが必要とお考えでしょうか?

これまでもIFAの方々は十分にやってこられたと思います。しかし、米国版IFAの歴史をたどっていくと、IFAをサポートする機能や企業の存在も、発展に大きく影響しています。現在、日本のIFAが発展途上にある中で、何か新しいことに取り組むのは、IFAの方々の余力を考えるとなかなか難しいのではないでしょうか。この現状を考慮すると、IFA自身の大きなアクションに期待するより、周辺企業がサポートを強化すべきではないかと考えています。もちろん、御社もこの周辺企業に該当しますので、今後もIFA業界に向けて様々な取り組みを行っていただきたいです。

最後に日本のIFAの方々へメッセージをお願いします。

月並みなメッセージで恐縮ですが、「お客様本位の提案の継続」に尽きます。今の日本の顧客本位の運営の議論は、「回転売買を行わない」や「系列商品を売らない」など、これまでの負の販売慣行の払拭に集約されがちです。しかし、これを乗り越えた後は、文字通り、お客様のニーズに耳を傾け、お客様の望むことを実現することが大切です。では、それはどのようなことかというと、顧客が多様化する時代においては、ニーズも多様化するので、こちらを丁寧にくみ取っていくことが重要になります。また顧客が企業オーナーであれば、個人金融資産だけでなく、事業の経営や資金繰り、従業員の福利厚生やその一環としての年金等、金融の課題は多々ありますよね。このような課題の情報収集も、先程お伝えした前工程に該当し、幅広い提案につながる可能性があるので、きめ細かく取り組んでいただきたいと思います。
そして前工程の対価として残高連動手数料をもっと浸透させてほしいと思います。有料サービスとすることで、前後の工程に取り組む姿勢や質も変わるのではないでしょうか。もし、すぐに展開することが難しければ、コミッションをいただきながら商品取引とは直接結びつかないサービス(資金繰りや経営の相談等)を提供する時に、オプションとして報酬をいただくことも考えられると思います。
IFAの素晴らしい点は、どこまでもお客様本位を追求して、柔軟なメニューを提示できる点だと感じていますので、今後の成長に期待しています。

経歴

明治大学専門職大学院グローバル・ビジネス研究科 
専任教授 沼田 優子様
   
1992年4月~2012年3月 野村総合研究所、NRIアメリカ、野村資本市場研究所、野村證券
2012年4月~2022年3月 明治大学 国際日本学部
2022年4月~2023年3月 帝京平成大学 人文社会学部
2022年6月~現在 いちよし証券株式会社社外取締役
2023年4月~現在 明治大学専門職大学院グローバル・ビジネス研究科