インタビュー

将来を見据えたIFAの課題と解決策

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大原社長がIFAに注目されている理由について教えてください。

弊社がIFAに注目している理由には、大きく2つあります。 1つには、従来型リテールビジネスが転換期にあり、お客さまとの関係に基づく資産運用アドバイスの提供が、今後はより重要になると考えていることがあります。
2019年末頃から、オンライン証券で株式売買委託等手数料の無料化が進む等、証券ブローカレッジの付加価値が既にコモディティ化していることが明らかになりつつあります。
また、代表的な金融商品である投資信託は日本全体で6,000本以上もあり、新商品の限界効用はほぼゼロに等しくなり、アセットマネジメントも、事業領域としてのステージが変わったと感じています。
証券ブローカレッジやアセットマネジメントに代わる新たな事業領域として、最後に残るのは「資産運用アドバイス」であると考えています。商品付加価値とは異なり、お客さまとアドバイザーの関係は、「私はこの担当者がいい」という感情的要素が含まれるので、付加価値がコモディティ化しにくいと考えています。
2つ目としては、IFA事業モデルの事業効率性の良さや顧客本位の業務運営に優位な立ち位置があります。
IFAは事業運営に必要なリソースを証券会社から提供されるというスキームであるため、自らが最も得意なこと、つまりお客さまへの提案やそのサポートに集中することができます。つまり、事業効率性がいいんですね。また、一社専属の証券会社の営業員とは異なり、様々な証券会社や運用会社等と提携し、お客さまに最善のサービスを提供する立ち位置にあるということも、IFAならではの特徴となります。
テクノロジーが進んだことで、感情がより注目されているんじゃないかなと思います。そういった意味で、資産運用アドバイス付加価値の提供が重視される流れのなか、IFAの方もこれからは個性をアピールする時代になるんじゃないかと予想しています。

IFA業界の一番の課題はどのような点だと思われますか?

IFAが注目されて、どんどんIFA業界の就業者数が増えているのはいいと思いますが、「ミニ証券会社の営業マン」が新たにたくさん登場しているだけのように感じてしまうところはあります。それは、皆さんが本当にやりたかったことなのかな、金融業界全体としてその方向性でいいのかなというモヤモヤがあります。
1社専属の証券会社の営業員とは異なり、お客さまに最善のサービスを提供することができる立ち位置にあるというIFAの特性を最大活用するのであれば、複数の証券会社等と提携しながら、お客さまにとって最適なモノを提案すべきだと思っています。ただ、今は残念ながら、75%ぐらいのIFAは1社専属なんですよね。1社のみとの提携が必ずしも悪いということではないんですが、IFAの特性を活用するにはどうすべきかという検討がそこに果たしてあるのかという問題意識があります。
なので、IFAは何を強みとしてできるのか、何を強みとすべきなのか、個々のIFAがどんな営業活動をするべきなのかという、共通認識やロールモデルがないというのは、最も深刻だと感じます。それを指し示したり、サポートを提供したりするようなプラットフォームをいかに構築することが対応すべき最初の課題であるように思います。

この課題を解決するにはどのように行動すべきだとお考えでしょうか?

IFA事業者の皆さまのビジネスをサポートする立場として、お客さま本位のサービスを提供するということは、お客さまだけのためじゃなくて、IFAにとってもビジネスが大きくなることなんだということをロジカルに説明したいと考えています。
例えば、アドバイザーを正社員として雇用すると固定費負担が重いので、業務委託や歩合制報酬の形式を主とするところも少なくないと認識していますが、正社員中心の組織でなければ、理念の浸透や赤字が先行する大きな事業投資等はなかなか容易ではありません。ただ、コミッション収入依存の事業モデルでは、正社員の固定費負担は安定した経営の観点からはなかなか難しいのも事実としてあります。従って、残高比例のフィー収入重視の事業モデルの方が、正社員中心の組織構築・運営も容易となるし、それが結果的に会社として大きな事業成長を達成することにつながる等、「これがいい、あれは悪い」といった感情的な議論ではなく、ロジックで納得いただけるのではないかと思います。
こういうふうにIFAとしての付加価値を出すといいんじゃないかと指し示すのは、協会であってもいいし、代表的なIFA事業者であってもいいし、弊社のようなIFA事業者じゃないんだけどIFA業界に関係している会社でもいいと思います。

日本資産運用基盤グループを立ち上げたのはどういった背景からなのでしょうか?

以前に資産運用会社を立ち上げたときに強く感じたのは、欧米に比べて、日本では金融・資産運用ビジネスの立ち上げや運営の負担が非常に重いということです。
例えば、資産運用に関する事業を立ち上げたい場合、自分は投資運用判断が得意で、そこを強みにしたいということであれば、ファンド・マネジメント・カンパニーやそれに関連する事業プラットフォームが存在し、それらと連携しながらスムーズにビジネスを立ち上げられるんですね。
一方、日本では、良い資産運用サービスを作って届けたいだけなのに、システムや事務部門の整備等、強みや特徴とする付加価値とは関係ない余分なものも全て自前で準備しなくてはなりません。このような状況は、個々の企業単位のみならず、業界全体として非効率だなと感じたんです。経済学でいうところの「比較優位の原則」を活用し、例えば自社は投資運用判断が得意、IFAの方はアドバイスやお客さまの対応が得意等、それぞれの強みが明確にあるのであれば、それ以外までも全てを会社としてやるのは無駄じゃないですか。
そんな問題意識もあり、以前に経営していた資産運用会社ではサービスの開発・提供を担っていましたが、今の会社では、自分がお客さまにサービスを提供する立場ではなくて、そういう方々を裏側でサポートする会社をつくろうと思って、日本資産運用基盤という社名のとおりの会社をつくりました。
理想としては、IFA事業者や資産運用会社、証券会社、地域銀行等、それぞれが自分たちの得意分野に集中できるような裏側のサポートを全部させて頂くという会社を目指しています。

日本資産運用基盤のビジネスモデルや事業内容を教えてください。

弊社自身は金融機関ではないですし、新しく証券会社等の金融機関を立ち上げるのも容易ではありません。一方、金融機関は既に数多く存在し、そこには機能もシステムも十分に整っています。従って、弊社の果たすべき役割は、そうした既存の金融機関の機能を外部に提供し、業界全体で共有できる仕組みを構築・運営することだと考えています。
例えば、IFA事業者と委託証券会社は、委託証券会社が金融機能やその他事業リソースを提供し、IFA事業者がそれらを活用し、事業を展開するという関係にあります。従来の証券ブローカレッジ事業等においては、こうした事業提携は問題なく運営されていますが、新しく資産運用アドバイス事業を展開しようとすると、委託証券会社側もそのために必要な投資一任運用(ラップ)事業スキームを具備していないし、IFA事業者側もそれを取り扱うに足る体制が整っていないという問題があります。こうした状況に対し、スムーズに金融機能やその他事業リソースが提供されるような仕組みを裏側で構築・運営するというのが私たちの役割です。
アメリカのRIA周りだと、TAMP(Turnkey Asset Management Platform)と呼ばれている業態があります。弊社のビジネスモデルはそのTAMPに類似しているように思います。

2021年にやっていきたいことや改善していきたいことなどの計画について、いかがお考えでしょうか?

繰り返しになりますが、金融業界にとって、株式売買委託等手数料や投信の信託報酬の無料化など、金融リテールビジネスの主要領域が「資産運用アドバイス」へと転換していくマイルストーンになる1年がちょうど2020年だったと思います。
昨年に準備をしてきた様々な金融機関が2021年以降に資産運用アドバイスに舵をきっていくんだと予想しています。IFAに対する関心が急速に高まっているのも過渡期だからです。IFA、地銀、保険も含めて、アドバイスビジネスが伸びていく中で「日本版RIA」スキーム、つまり投資一任運用(ラップ)事業スキームが今後強く求められていくと考えています。
弊社として今年達成したいこととしては、2つあります。1つは、「資産アドバイス」が今後の主要なビジネス領域となる流れのなか、お客さまの利益と金融機関の利益の両立は可能であるという意識を高めたいということです。
もう1つは、その上でそれを実現するためには投資一任運用(ラップ)スキームが有用であるということをしっかりと整理し、我が社がそのラップ事業スキームの運営基盤としての役割を担うことで、プラットフォーマーやアドバイザーがその事業基盤を活用し、成長性の高い金融事業を運営する土壌を整備したいと考えています。

経歴

株式会社日本資産運用基盤グループ https://www.jamplatform.com/
代表取締役社長 大原 啓一様

2003年東京大学法学部卒。2010年ロンドンビジネススクール金融学修士課程修了。
野村資本市場研究所を経て、2004年に興銀第一ライフ・アセットマネジメント(現アセットマネジメントOne)に入社。
日本・英国で主に事業・商品開発業務に従事。同社退職後、マネックスグループ等から出資を受け、
2015年8月にマネックス・セゾン・バンガード投資顧問を創業。
2016年1月から2017年9月まで同社代表取締役社長。
2018年5月に日本資産運用基盤株式会社を創業し、代表取締役社長に就任。